警備の目を上手く盗んで何十ものロックのかかったドアを解除した。

最後の扉を開けるとそいつは当たり前のように、当然のようにそこに居た。

そいつは男の前に立ちはだかってこう言った。

「あれれぇー。如何しちゃったのかなぁ?こんな夜遅くに……残業ですかぁ?」

ぁ、外に出るなら出張の仕事か?っとそいつはニヤけた面で言った。

男は月の光に照らされるそいつの顔を見るなり悟った。

「お前は……」

俺は……確実に殺される。

体が今すぐ逃げろと言っているかの様に震えが止まらない。

しかし、ここまできて諦めるわけにはいかないんだ。

今夜のチャンスを逃せば、もう後はない。

「……いまさら引き返すなんて出来ないんだ」

男は用心の為に持ってきた銃を取り出しそいつに銃口を向けた。

「お、お前は今"アレ"を持っていない!撃たれて死にたくなかったらそこを退け!!」

そいつはびっくりしたような顔をして、またヘラヘラ顔に戻った。

「それマジでいってんのぉ?おめぇオモシロ」

クック……銃なんて撃ったら皆起きちゃうってぇ。

「そん事、お前に言われなくても分かってる!」

銃を撃ったらその音で警備員がすぐにかけつけてくるだろう。

「だから……お前を撃ってすぐ逃げればいい!!」

男は引き金を引きそいつに向かって発砲した。

銃声が夜の闇に響き渡る。

月の光しかない暗闇の中で弾丸がどこに当たったか確認することは出来なかった。

だが奴は崩れるように地面に倒れた。

「ははははは!!……ははは……」

はは…男は目の前の光景に足をすくんだ。

殺してしまった。

この手で。

人を……ひ……と。

奴は“人”なのか……?

「貴様!そこで何をしている!!」

警備員が銃声の音に数人かけつけてきた」

男はその声にわれに返った。

「ッ!?」

逃げないと!ここで捕まるわけにはいかないんだ!!

頭で理解しても体がそれに反してゆうことをきかない。

この手で殺した。その現実に足がすくんで動けない。

警備員は男の手に銃が握り締められ、目の前に誰かが倒れているのを見ると慌てて言った。

「その銃を捨てろ!さもないと撃つぞ!!」

銃を捨てる?

「…手が痺れて動かないんだ」

何をボソボソ言っている!早く銃を捨てろ!

今夜、二発目の銃声が響き渡った。


◇――――――――――――――――――――――――――――◇

「冷たっ!?」

突然のことでびっくりしたエマは川の中で暴れて、川の冷たい水が服の中まで入ってきた。

「わっはは!トマ様さんじょーうっ!」

"大丈夫か……エマ"

ベレヌスが少し戸惑ったように言った。

「もー!またトマね!!」

ずぶ濡れになったエマは怒って後ろを振り返った。

そこにはエマと同じぐらいの年頃の男の子が笑いながら立っていた。

「川で水汲み、俺に背を向けてたら落としてくださいって言ってるもんだぜ!」

どんな理由よ、っとエマは呆れながら川から這い上がった。

びしょびしょになったエマに秋の肌寒い風があざ笑うかの様に吹き付けた。

うっ、寒っ。

“早く家に帰って着替えたほうがいい”

ベレヌスはエマの貧弱な体を心配して言った。

「そうだね、ベレヌス」

なぁなぁエマ、っとトマがが話しかけてきた。

「…なによ」

機嫌を損ねたエマは水を汲んだ壷を両手で抱きかかえた。

さすがにトマもやりすぎたと反省したようだ。

「そんな怒るなって。そんなことよりさぁ。ベレヌスって奴お前の中に本当にいるのか?」

そんなことっと言われてさらにムッっとしたが、適当に聞き流すことにした。

「それがどうしたの」

エマは汲んだ水をこぼさないよう大事に壷を抱えて、来た道を帰る。

その後ろをトマが両手を頭の後ろに組んでついてきた。

「じゃあさ、何でお前にそのベレヌス?が居てさ、俺たちには居ないんだ?」

「トマなんかには、ぜーったい教えないんだから」

トマにはそう言い返したが、実はエマも分からない。

どうして、自分にだけベレヌスが宿っているのか。

村の人たちはエマには守り神がついているって言っていた。

そしてその守り神は村の災いから護る為にいるのだと。

エマは昔、ベレヌスに聞いたことがある。

何故私の中にベレヌスがいるの?っと。

ベレヌスは少し間をおいて

“時がくれば自ずと分かる。今はその時ではない”

と言って教えてはくれなかった。

ボーっとしているエマの顔を見てトマが言った。

「お前さぁ……本当は知らないんじゃないのか?」

ギクッ。図星をつかれたエマだが、悟られないようになんとか平然を保とうとした。

「知ってるもん……。そんなことより服!こんなに濡れちゃってどうしてくれるの!」

トマは「あはは……水が入った壷重いだろ。俺が持ってやろうか」と笑ってごまかした。

ザワッ。

草のトンネルを抜けようとした時、何かが草の中から飛び出してきた。

「な、なに!?」

持っていた水の入った壷を危うく落としそうになった。



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